西に案内された先は、濃厚な闇に包まれた部屋らしき場所だった。
らしき、というのはつまり、あまりに暗過ぎてそこが部屋なのかどうかも
判断できないという事だ。
辛うじて『何か』があちらこちらにあるのは分かるが、それが何なのかは
目を凝らしても見えなかった。
そんな闇の中を、西は真っ直ぐに進んでいく。
どこに何があるか、完全に熟知してなければ出来ない歩き方だ。
夢美も後を追おうとしたが――――
夢美
「痛っ!」
――テーブルか何かの角張った部分に腰をぶつけ、小さく呻いた。
西
「ああ、そこで待っていたまえ。今、明かりをつけよう」
既に闇と同化した西が、少し離れたところから声を掛ける。
夢美はその場で立ち止まると、素直に明かりがつくのを待った。
果たして、この場所に何があるのか……。
胸の湧くのは恐怖ばかりで、希望などといったものはカケラもない。
この半月ほどの間に、夢美はすっかり生きる気力そのものを失くしていた。
そして、この次の瞬間から、夢美は『生きる自由』さえ失うのだった……。
夢美
「うっ!」
突然、部屋の照明がついたため、夢美は思わずまぶたを閉じた。
白い光が視界いっぱいに広がって、眼球に小さな痛みを与える。
夢美はおそるおそるまぶたを開けて、自分の正面に広がっている光景に目を凝らした。
そこには――――
夢美
「ひ――――――――――――ッ!?」
自分の周りに広がっていた異常な光景に、夢美は思わず目を剥いた。
室内を占めるのは、想像を遥かに絶する異質な空間。
天井から得体の知れない物体によって吊り下げられた裸の人間達が、
無防備に下半身を晒してピクピクと蠢いている。
特徴的なのはその腹部で、吊られている者達の大半が風船のように膨らませていた。
だが、それ以上に異質な光景は、陳列された手術台のような物の上にあった。
手術台からにゅっと生えているのは同じく人間の下半身で、両脚を真横に広げられ
固定されている。性別は股間を見れば一目瞭然で、いずれも肛門に太い筒のような
物をねじ込まれていた。
台の下――つまり上半身がどうなっているのかは分からなかったが、
ロクな想像は浮かばない。
夢美
「……………………………………………………ッ!」
背筋を冷たいものが駆け下りる。
この世にこれほど人間を冒涜した光景が、果たして他に存在するだろうか。
人間を人間として扱わない行為がどれほど狂ったものなのか、夢美は否応なく
知ることができた。
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