――きれいな子だな、と思った。
さらさらと流れるような黒髪。
その髪を、頭の2か所で束ねている。
透き通るような色白の肌。
小作りな顔に、黒く濡れたような輝きを放つ瞳――。
まるで、妖精のようだと思った。
いや、妖精そのものだと思った。
彼女は。
その少女は、葛葉神社の境内の、地面に屈みこんで。
白い紙を、しきりにいじくり、もてあそんでいた。
紙は。
彼女の手の中で折られ、たたまれ、形を変えてゆき。
ついにそれは、ある生き物の形を模したものになった。
…………数羽の、小鳥たちに。
その、小鳥たちは――――
パタパタと羽ばたきながら、彼女の周囲を飛び回りはじめた。
あたかも、本当の生命を与えられたかのようにして。
小鳥たちはしばらくのあいだ少女の周りを飛んでいたが、やがて。
少女が差し出した手や、その肩先にふわりと舞い下りた。
身を小刻みに震わせながら、疲れた羽を休めている。
【綺來】
「うふふ……だめよ、まだ遠くへは飛べないんだから……ね? いいわね」
そういって、指先に止まった小鳥の嘴(くちばし)をちょんちょん、とつつく。
小鳥はそれに応えるようにして、ピー、ピー、とカン高い鳴き声を立てた。
――本物だ。
本物の小鳥みたいだ。
うわ。
すっげぇ。
胸が高鳴った。
いったい、なにがどうなってるんだよ!?
目を丸くした俺は。
それまで隠れていた木の陰から、一歩踏み出していた。
【司颯】
「すっげー! お前、すげぇコトできるんだなっ!」
内心の驚きを、感嘆の吐息とともに吐き出す。
【綺來】
「……っ………………!?」
瞬間。
少女は、びくん、と身をすくませた。
なにか恐ろしいモノに出くわしたかのように、
大きな瞳がまじまじと俺を見つめている。
紙の小鳥たちは、少女の硬直に反応して、ふたたび宙に舞いあがってしまった。
俺も、自分自身をどうフォローしていいかわからず、
棒を飲んだように突っ立っていた。
が、ややあって、ようやく気がついて。
【司颯】
「あ、ははは……わりぃ、びっくりさせちまったな」
後頭部に手をやり、ぼりぼり掻いた。
照れ隠しの笑いを浮かべてみせる。
そんな俺を見て、少女は――――
【綺來】
「ふふっ」
微笑みを返した。
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