急に風が吹いた。周囲を取り囲む木々が一斉に揺れる。
それは澱んだ空気を切り裂く、一筋の清浄な風。
その風が池の水面を揺らし……
ふいに水が噴水のように高く、高く、天へと噴き上がった。
俺の視界に薄い桃色のものが淡雪のようにちらつく。
これは……桜の、花びら?
噴き上がった水は霧雨のように降り注ぎ、桜の花びらと混ざり合う。
淡く、淡く、桜色に輝くと、光を放つ。
俺はその光から一瞬だけ目を背けた。そして次に“彼女”を見た瞬間―――――
シュッ―――――
耳慣れた風切り音が響いた。
水色の煌く矢は小鬼に突き刺さり小鬼はそのまま灰へと返った。
“彼女”が立ち上がる。
そこはいつもの退魔服ではなく、戦闘服と言ったほうがふさわしい、
桜色の服に身を包んだ姿があった。 手には桜の意匠を凝らした弦のない弓が握られている。
身体を横へと開いて水の矢を番えると“彼女”は不敵に笑ってみせた。
【水菜】
|