【音美】
「おー、よちよち。怖くにゃいからね〜♪」
木の上に、音美がいた。
ここからだと可愛らしいパンツが丸見えだ。
……今時、イチゴ模様とはね。
【司颯】
「あいつ――なにやってんだ、あんなとこで?」
【架威】
「あぁ、なんか猫がいるんだってよ」
【司颯】
「猫――あぁ、またか」
俺は納得した。
ったく、音美ときたら、猫にはからっきしヨワいのだ。
道端で野良猫に出くわそうものなら、たちまちしゃがみこんで手なずけようとする。
いや、あれは手なずけようとしてるってより――
『交信』でもしようとしてるんじゃないか?
それくらいフレンドリーに接近していくのだ。
【司颯】
「しかし、なんで木の上なんかに?」
【架威】
「それがな、あの猫、どうも木の上に登って、下りれなくなっちまったみてぇだぜ」
【司颯】
「ふーん」
……確かに。
音美は太い枝に乗っかって、しきりに手招きをしている。
その対象は、灰色の毛に虎縞模様の仔猫だった。
【仔猫】
「ミャウ〜、フニャァ〜」
見知らぬ音美を警戒しているのか、じりじりと後退りしている。
そのため、あと少しで枝から転がり落ちてしまいそうだ。
【音美】
「ほ〜ら、危ないでちゅよ〜、落っこっちゃいまちゅよ〜、こっち来なちゃ〜い♪」
文字通りの猫なで声である。
……どうして猫好きというのは、猫に対して赤ちゃん言葉を使うんだろう。
保護してやりたい、思いきり可愛がってやりたい――
という意識の表れなんだろうか。
【仔猫】
「ウニャッ、フウーッ」
猫は背中を丸くして、毛を逆立てている。
音美のやつ、猫が怯えてるってことに気づいてないんだろうか。
ったく…………!
【音美】
「さ、怖がらないで、こっち来ましょうね〜?」
音美はしきりにおいでおいでと差し招くが、仔猫は警戒をゆるめない。
やむをえず、音美は仔猫がいる枝の先の方へと移動しはじめた。
ゆっくり……ゆっくり…………
もちろん音美は下界にいる俺にパンツが見えていることなど、
気づいてもいないのだろう。
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