【七深】
「聞いたよ、なっくん」

【夏希】
「何を?」

【七深】
「春奈ちゃんのこと。なっくん、やっちゃったんだって?」

七深は後ろを振り向き、僕もそれに倣って振り向く。

そこにはうつむいて地面を見ながら、てくてくと歩く春奈が居た。

時折、所在なさげに周りを見ているので、眼が合ったがそれもつかの間だった。

春奈はピンク色の舌を出して、直ぐにそっぽ向いた。

【夏希】
「と言ってもねえ……なんで怒られたのか、僕にはいまいち分かんないんだけど」

【七深】
「ん〜……まあ、なっくんだからね。わかんないのも、無理はないかもしれないね」

【夏希】
「……どういう意味、それ?」

【七深】
「あ、別に悪い意味じゃないよ」

【七深】
「ただ、なっくんがなっくんだからこそ、分からないこともあるっていうことだよ」

【夏希】
「何、それ?」

七深の言い分からは要領を得ることが出来ず、
結局どういうことなのか分からず終いだ。

【七深】
「とりあえず今言えるのは、素直に謝ることだね」

【七深】
「このままだと春奈ちゃん、ずっとあのままかもしれないよ」

【夏希】
「でも、何が悪かったのかが何も分からないと、謝りようが無いんじゃない?」

【七深】
「何も分からないっていうことはないんじゃないかな」

【七深】
「なっくんの行動が原因で、怒っているっていうのは分かっているんだし」

【夏希】
「ん〜……そうなのかな」

【七深】
「そうなのだよ」

七深は微笑みを浮かべている。

【七深】
「こういうときは、なっくんのほうから動かないと」

【七深】
「なっくんも、このままずっと居るのは嫌でしょ?」

こういうときの七深は、凄く的確に僕の考えていることを突いてくる。

さすが、付き合いが長いだけあって、僕のことを隅から隅まで知っている。

隠そうとするだけ、無駄だった。

【夏希】
「……そうだね。じゃあ、行ってくる」

【七深】
「ん、行ってらっしゃい」

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