【夏希】
「春奈〜、早く〜」
扉に向かって声をかけると『わ、分かってるよ〜』という声が返ってきた。
どたんっ、ばたんっ、がっしゃ〜んっ!
【七深】
「……すごい音だね」
【夏希】
「な、何をやっているんだ、春奈は……」
何をそんなに慌てる必要が……。
【夏希】
「……ああ」
そうか今日は初めての登校の日だから、慌てるというより緊張しているのだろう。
髪型は乱れていないか、リボンが曲がってはいないか、
そういう所を懸命にチェックしているのかもしれない。
【夏希】
「……ごめん七深、ちょっと待っててくれる」
【七深】
「うん、大丈夫だよ。ゆっくりしてて」
七深の了解を得ると、僕は再び自宅の戸を開けた。
【夏希】
「……」
【春奈】
「……」
【夏希】
「何でこんな状況に……?」
【春奈】
「な、何でって言われても……」
【夏希】
「……とりあえず、スカートを持ちながら寝転がっているのは何でかな?」
それがデフォルトの着替え方ならば、とんでもない妹を持ったことになる。
【春奈】
「え、え〜っと、話せば長いようで短いんだけど……」
【夏希】
「じゃあ話して」
【春奈】
「あうぅ……じ、自分の部屋で、普通に着替えてただけだよ、うん……」
【夏希】
「いやいや、普通そんな格好にならないから」
【春奈】
「そ、そうなんだけど……。着替えていたら、
お母さんが『早く、早くっ!』って楽しそうに急かすから、つい……」
【夏希】
「つい?」
【春奈】
「慌てた拍子に階段から転がり落ちて……」
【夏希】
「あんたか母親!」
【千秋】
「ひゃうんっ!」
リビングに続く戸から素っ頓狂な声が上がり、
千秋母さんがこちらを覗き見ている。
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