【あかね】
「んん〜〜、んん、んん〜〜、んん♪」
あかねは鼻歌まじりに針を動かす。
【あかね】
「イてっ……」
【皇ヶ崎】
「おい、大丈夫か?」
【あかね】
「てへへ。ちょっと失敗」
あかねが指に針を刺したのは、これで6度目だ。
【皇ヶ崎】
「新しい制服が支給されるって言ったのに、なんでそんなことをするんだ?」
【あかね】
「そんなの決まってるじゃないですかぁ。司令のことが大好きだからですよぉ」
【皇ヶ崎】
「えっ?」
【あかね】
「えへへっ」
俺は、なにを動揺しているんだ?
あかねは恋愛がどういうものが分かっていなかったじゃないか。
あかねの言う大好きに特別な意味はないんだぞ。
子供が大好きだというのと同じ意味だ。
【あかね】
「んん? どうしたんですか、顔が赤いですけど」
【皇ヶ崎】
「い、いや……。その……。あかねは裁縫がうまいんだな」
【あかね】
「えへへへ。研究所の女性研究員が教えてくれたんです」
【皇ヶ崎】
「研究所では裁縫まで教えるとは知らなかったな」
【あかね】
「あたしが興味を持ったから、特別だって」
【あかね】
「イてっ……。裁縫だけは覚えがよくて褒められたんですよ」
また指を差したぞ。これで本当に覚えがいいのか?
【あかね】
「んん〜〜、んん、んん〜〜、んん♪」
針を指に刺す回数は多いものの、あかねは器用にかぎ裂きを繕っていく。
こんな細やかな女性的な一面があるとは思わなかった。
【あかね】
「ハイ、完成です!」
【皇ヶ崎】
「ありがとう」
【あかね】
「どういたしまして。会心のできですよね、司令?」
【皇ヶ崎】
「そうだな……」
あかねが言うほど、出来が良いわけじゃない。
ただ、あかねの一生懸命さが嬉しかった。
【あかね】
「えへへへっ」
恵美は裁縫をしなかったな。
苦手なんじゃなく出来なかった。
ただ恵美の手料理は抜群だった。
【皇ヶ崎】
「これで料理が上手かったら、申し分ないな」
【あかね】
「あううっ。料理するのは好きですけど……」
【皇ヶ崎】
「好きなら腕は後からついてくるもんだ」
【あかね】
「そうですかぁ? えへへっ、うれしいなぁ」
【皇ヶ崎】
「あかねは良い嫁さんになれるな」
【あかね】
「あれ? 司令も同じ事を言うんですね」
【皇ヶ崎】
「あん? なにがだ?」
【あかね】
「いいお嫁さんになれるよって。研究所の人もそう褒めてくれました」
【皇ヶ崎】
「褒められて嬉しくないのか?」
【あかね】
「アンドロイドでもお嫁さんになれるのかな?」
俺は何を言ったんだ?
アンドロイドが、人間の嫁さんになんて、なれるわけがないじゃないか。
……そうだ。
あかねは生身の人間じゃない。アンドロイドなんだ。
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