戸の向こう側からは、微かな熱を帯びた空気と、
むっとしたカビの臭いが溢れ出してきた。
夢美も優斗も思わず顔をしかめ、小屋に入ろうとしていた足を止める。
目で見なくとも分かる。
この小屋は、とても人の住めるような場所ではなかった。
一晩でも泊まれば、必ず何かの病を患ってしまうだろう。
優斗
「うっ……」
カビの臭いにあてられたのか、優斗が短く嗚咽を漏らす。
最初に灯りがついていなければ、二人とも即座に戸を閉めただろう。
だが、夢美はあえて一歩足を進ませた。
カビの臭いは、鼻が曲がりそうなほどに強烈だったが、我慢できないわけではない。
過去、これ以上に劣悪な部屋に押し込められていた経験がある夢美にとって、
カビだけの臭いしかしない部屋はまだマシなほうだった。
夢美
「誰かいるの?」
眉間にしわを寄せながら、ぐるりと室内を見回す。
濃密な闇が視界を遮っていたが、ここに誰かがいるのは間違いないのだ。
夢美は、さらに一歩踏み出し、そして――――
夢美
「――――――――――――――――――ッ!?」
思わず、息を呑んだ。
目の前に広がる光景が、最初は現実だと判断できなかった。
部屋の隅に固まっているのは十人ほどの子供。
全員、睨むような目つきで、夢美のほうを見ている。
ただひたすらに純粋な敵意――――。
いつ襲ってきてもおかしくない雰囲気に、夢美は全身を硬直させた。
優斗
「夢美ちゃん?」
小屋の外に立っていた優斗が、不思議そうに声を掛けてきた。
カビの臭いに表情をゆがませながら、そっと小屋の中を覗き込む。
最初は何がいるのかよく分かっていない様子だったが、
やがて「あっ」と小さく声を漏らした。
優斗
「こ、子供?」
とても信じられないといった様子で、優斗が口元を押さえながらつぶやいた。
室内に広がっている異様な光景に、それ以上の言葉が出てこなかった。
何故、こんなところに子供がいるのか。
何故、こんなカビだらけの小屋に住んでいるのか。
何故、夢美と優斗をそんな敵意に満ちた目で見るのか。
次々と湧き上がってくる疑問に、自然と体が震え始めた。
これ以上踏み込めば、穏やかではない事態に陥ると、
漠然とした予感が夢美の胸を締めていた。
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