レン
「怪我はありませんか?」
夢美
「え…………」
夢美が尻餅を着いたまま振り返ると、真後ろに一人の男が立っていた。
全身黒ずくめの、表情をサングラスで隠した青年。
夢美
「あ、あなた…………?」
レン
「この場でじっとしていて下さい。すぐに終わらせます」
青年が、何か筒のような物を前に向ける。
対して森の奥からは、夢美を襲い続けていた蟲と同じ大きさのものが、
何匹も向かって来ているところだった。
レン
「――――――――――ッ!」
青年が短く声を漏らした瞬間、筒から何かが発射される。
それが蟲だと理解するのに、目で見て確認する必要はなかった。
森の中に二種類の羽音が響き渡り、それとともに他の昆虫や鳥が逃げていく。
弾丸のように撃ち出された蟲は、容赦なく相手の蟲を粉々に砕いていった。
その時の音は爆竹のそれに似ていて、夢美は思わず耳を塞いでしまった……。
レン
「終わりました」
時間にして一分と少し――――。
うずくまっている夢美に手を差し伸べようともせず、青年が淡々とした表情で言った。
まるで、野良犬でも追っ払ったかのような、その程度のことでしかなかったかの
ような口振りだ。夢美はこわごわと青年を見上げたが、返って来たのは氷のように
冷たい雰囲気だけだった。
夢美
「だ、れ……?」
レン
「貴女の護衛です」
レン
「本来、姿を現すのは禁じられているのですが、やむを得ない事態でしたので……」
青年の言っている事が、半分も理解できない。
いきなり現れて「護衛」だと言われても、夢美には何のことやらサッパリ
分からなかった。
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