緑したたる木々が、夕陽を浴びて赤く染まっている。
その中心に。
ひときわ高くそびえ立つ樹があった。
いましも天に向かって昇ろうとする竜のような樹が。
【司颯】
「…………………………」
なんという種類かわからないが、どっしりと生命力に満ち満ちた樹だった。
樹齢も相当なものだろう。
この樹であれば、神社のご神体になっていてもおかしくはない。
その偉容に、しばし圧倒されてしまう。
と――――――――――
その樹の根もとに。
少女がひとり、もたれかかっているのに気づいた。
生地の薄い白衣(びゃくえ)に、緋袴。
――巫女さんだろうか。
大樹の幹に頬を寄せ、目を閉じて。
まるで眠っているかのように見える。
少女は両手で幹を抱いていた。
それでも、樹の方が彼女を抱いているようだった。
ふわり――と、夕暮れ時の気まぐれな風が吹いて。
少女の長い髪をさらさらとなびかせてゆく。
眺めているうちに、少女が大樹にすうっと溶けこんでいってしまうのではないか
――ふと、そんな風な幻想を抱いた。
【司颯】
「あ…………………………!」
俺は我を忘れ、茫然と立ちつくしていた。
まさに、逢魔が時――――。
光と闇、虚と実、夢と現(うつつ)が交錯する妖しの時にふさわしい光景だった。
少女に声をかけるのがためらわれた。
できることなら、いついつまでもこの場に身を置いていたかった。
だが――――――
そんな俺の思いは、唐突に敗られた。
少女がすっ――と目を開いたのだ。
濡れ濡れと輝くような瞳が、俺を見る。
俺の目を、まっすぐ貫き通すかのように。
【司颯】
「ぅ……ぁ……あの………………」
いたたまれなくなって、俺はぎこちなく咳払いをした。
少女からいったん目をそらし、独り言のように言葉を紡ぎ出す。
【司颯】
「ぃゃ……な、なにしてたんだ……君……?」
【少女】
「…………………………」
巫女姿の少女は、うっすらと微笑んだ。
目立たぬ花のつぼみが時を得てほころぶような、そんな笑顔だった。
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