さやか
「あの娘」

公博
「あの娘とはどちら様のことでございましょうか?」

さやか
「わざとらしい。あんたのフィアンセよ」

公博
「……ああ」

ここで肯定と取れる発言をしてしまうのはおかしいと
も思ったが、あの娘が誰を指しているかについてはわ
かったので、とりあえず話を進める。

さやか
「どうすんの」

公博
「さあなあ」

あればっかりはもう、取り返しがつかないだろう。

公博
「人の噂も75日作戦、かな」

さやか
「随分と消極的」

面白くなさそうに眉をひそめる。……何か機嫌でも損
ねたのか?

公博
「だってよお前さあ、逆に訊くけどこの状況で俺が出
来ることって何かあると思うのか?」

さやか
「……無い」

公博
「だろう? だったら時間に頼るのも自然だろうが」

どうにかできるもんなら、とっくにどうにかしてる。

公博
「しかもさっき廊下ですれ違った、名も知らぬ後輩の
女生徒に何て後ろ指差されたかわかるか?」

さやか
「話の流れで方向性は想像つく」

くくと、愉快そうに笑うさやかがこの時ばかりは、い
つにも増して憎たらしかった。

公博
「『わ〜見て見て〜〜! アレが噂の運命の赤い糸先
輩だよ〜〜〜』……だとさ」

思い出しただけで頭が痛くなる。