【ナディア】
「……そういえば、ナツキと出会ってから、一週間が経ったのですね」

【夏希】
「早いものだね。  あの時のことは忘れられるものじゃないよ」

【ナディア】
「そうなのですか?」

【夏希】
「そうだよ。イキナリあんな未来を予言されたら、  誰だって印象深く残るものだよ」

【ナディア】
「……申し訳ございません。あんなことを言って……」

【夏希】
「いや、別に責めているわけじゃないよ」

【夏希】
「占った結果、そう出ただけなんでしょ?」

【ナディア】
「……はい、そうですね」

ナディアはそう言って、椅子の後ろからバッグを手に取った。

そして中から、パンを一個取り出す。

形からして、あんぱんだろう。

【夏希】
「……ひょっとして、それが昼食?」

【ナディア】
「ええ、そうですけど……」

【夏希】
「大丈夫なの? 食べてからもずっとするんでしょ?」

【ナディア】
「ええ、でも大丈夫なのですよ。私、少食なのですから」

【夏希】
「いや、いくら少食でも……」

これは、少なすぎはしないか。

【夏希】
「もうちょっと食べたほうが良いと思うよ。
 栄養を摂らないと身体に悪いよ」

【ナディア】
「大丈夫なのです。ナツキの心配するようなことにはなりませんよ」

【夏希】
「……そう、かなあ」

昼食がパン一個で、持つわけが無い。

ましてや、この裏通りはそうでもないが、熱射病の可能性も否定できないのだ。

……やっぱり、もう少し食べるように助言したほうが良いな。

そう思ったが、ナディアに機先を制された。

【ナディア】
「心配は要りません。私はこう見えて、身体は丈夫にできているのですよ」

そう言ってナディアは、いつもの清流のような微笑みを見せる。

……だが僕にはそれが、影が差したように見えた。

なぜこうまでして、彼女は占いを続けるのだろうか。

ふと、そんな疑問が湧いた。

【夏希】
「……ナディアは、さ」

【ナディア】
「はい?」

そう言ったところで。

ふと、言葉を止めた。

これは果たして、尋ねて良いことなのだろうか。

僕はこの領域に、踏み込んで良いのだろうか。

出会ってたった一週間の、ただのクラスメイトである、鎹夏希が。

その疑問を、彼女に投げ掛けて良いのだろうか。

【夏希】
「……いや、何でもないよ」

聞けるわけが無い。

ひょっとしたら深い理由があるかもしれないのだし、
軽々しく聞けるようなことじゃない。

……まだそこまで、僕等は辿り着いていない。

【ナディア】
「……そうですか」

ナディアは特に気にしているわけでもなく、持っていたあんぱんの袋を開ける。

そして、あんぱんを一口、口に頬張る。

【ナディア】
「……あまり美味しくありませんね」

【夏希】
「大量生産の、市販品だからね。
 本格的な味を求めるには酷というものだよ」

【ナディア】
「そうですか……ちょっと残念なのです」

本当に残念そうに言うナディア。

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