【未有】
  「うん。パパとこうして、一緒にいれるのは、
ボクにとって本当に、幸せな事だから」

にっこりと微笑み、現状の満足感を、報告してくる。

恥ずかしいやつだなと、思う。
けど、その恥ずかしさが、嫌ではない俺がいるのも、また事実だ。

未有の実直さは、何にも変えられぬ、未有という存在の、
最高の美点だと、俺は思う。

【未有】
 「ふ……みゅぅ……ん……ぁ……」

パチパチと、必死に瞬きを続けるが、ついに限界が訪れたのか、
ゆっくりと、スローモーションのように、未有の身体が崩れていく。

【司颯】
 「やれやれ。大きな子供だな、ったく」

つい先刻まで、起きていると意地を張っていた決意が、
嘘のように、未有はあっさりとまどろみの世界へと、旅立った。
作為的にではないが、身体を傾かせた未有の、顔の着地点に、
丁度俺の伸ばした足があった。

このままでは格好が悪いので、未有を起こさないよう、
慎重に体勢を変える。
座りなおし、足を正座の形にして、未有の頭をそこに乗せてやる。

【司颯】
 「本来、逆の立場こそが、王道なんだがなあ」

まるで架威のように、腐り切った発想の元、台詞を口走ってしまう。
無邪気で、無防備な未有の寝顔。
見ている内に、無意識に、未有の頭に手が伸びた。
優しく、あまり刺激を与えぬよう、ゆっくりと、何度も頭を撫でる。

【司颯】
  「艶々でサラサラだなあ。女の子の髪ってのは、
どうしてこうも、肌理細やかにできてるんだ」

指で梳く度、絡まずにすり抜けて行く未有の髪質を
目の当たりにしながら、俺は呟く。
まあ、世の中には勿論癖っ毛の娘も存在するので、
一概には言えないが。

【司颯】
 「いつまでも続けばいいな」

思わず、俺はそんな一言を漏らす。

【未有】
 「う、みぅ……ぱぱぁ……」

寝言まで俺の事かよと、笑ってしまった。