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人によってガラクタとしか思えないような品々の堆積に
寄りかかるようにして――――姉さんが眠っている。

このところ、夜になっても暖かいので、ラフな着物を
一枚まとっているだけだった。胸もとは大きく開いて
肩まではだけ、裾から長く白い脚が覗いている。
健康な男子がみたら生唾をごくりと飲みこみそうな眺めだが、
俺は……見慣れてるからな。

――そんな格好で寝たら風邪ひくよ、とは思うのだが、
考えてみれば姉さんが体調を崩したり具合が悪くなったり
したところを見たことがない。
よっぽど頑丈にできてるんだろう――なんて、
そんなこと本人にいったら鉄拳制裁を食らうだろうけど。

【瑠璃】
 「はふぅ…………っ……!」

姉さんは気持ちよさそうに、くぅくぅ寝息を立てている。

その表情は、どこか幼いものを感じさせた。
年齢不詳とは、こういう感じを言うんだろう。

【司颯】
 「姉さん……か」

溜息をついた。
姉さん――葛葉瑠璃は、俺の本当の姉さんではない。
だが、小さい頃から俺はこの女性(ひと)を『姉さん』と呼んできた。

姉さんは。
俺の姉さんは、すごい人なのだ。

【司颯】
 「………………………………………………」

とは、いうものの。
こうやって実際に姉さんを間近で見ていると…………。

【瑠璃】
 「はふ〜ん……むにゃむにゃ…………」

姉さんは幸せそうに口をモゴモゴ動かしている。

【瑠璃】
  「んっ……ぁぅ……そんなに大きいの……
頬張りきれないわよぉ…………!」

ったく、また食い物の夢でも見てるのか。
それとも別のテーマか……?

【司颯】
 「ちぇっ」

邪気のない寝顔を見ているうちに、だんだん腹が立ってきた。

【司颯】
 「……そうだ」

俺はポケットから、いつも身につけている紙を取り出した。
軽く息を吹きかけ、ふわり、と宙に放してやる。

――――と。
紙はひらひら舞い落ちながら、小さな昆虫へと姿を変じた。

……一羽の、蝶。

――――蝶は。
ひらひらと翅(はね)をはためかせつつ、姉さんの顔へ飛んでいく。

…………そして。

姉さんの鼻先に、ちょこんと停まった。
そのまま、のんびり翅を休めている。
うららかな春の朝には似合いの情景――と、いったところか。

【司颯】
 「…………マヌケ」

フッと笑って、つぶやくと。

【瑠璃】
 「だぁれがマヌケだって?」

そう言って。
ふいに姉さんがぱっちり目を開け、身を起こした。