綺來は手に取った服をいちいち身体の前で合わせては、
俺の意見を求めてくる。
……どっちでもいいよ、正直。
綺來はすぐに興味の対象を移し、棚から棚へ、
陳列台から陳列台へ、忙しく飛び回ってる。
俺としては、他の女性客をかき分けかき分け、
ついていくのがやっとだ。
周りの目がとても気になり、綺來が発する一言一言に対して、
まともに答えられる状態じゃない。
うーん、それにしても……女の子の服というのは、
なんでこう値段が高いのか。
その代わり生地なんかペラペラで、とても長持ちする
ような感じがしない。
……まあ、それでいいんだろう。
女の子のファッションは、せいぜいひとシーズン保て
ばいいわけで、季節が変わればまた次の服を買いに
来るわけだから……長持ちさせる必要がないんだ。
【綺來】
「……よーし、決めた! これ!」
綺來がようやく決心した。神社のご神体を掲げ持つ
ようなうやうやしさで、一着の服を手にしている。
【司颯】
「どれどれ……それ幾らするんだ?」
俺はなにげなく値札を見た。
そして目玉が飛び出した。
――ぶッ!
【司颯】
「お前ちょ……これ……ぅゎ……高……っ……!」
少し、というか、いや、かなり値段の張る商品では
あるのだが……しかし……。
綺來のすがるような、期待に満ちた目を見つめ返すうちに、
心が決まった。
【司颯】
「よーし、これ……俺が、か、買ってやる……よ」
ちょっと口の端が引きつっちまったかな。
しゃーない、奮発してやるさ。
財布の中身を見ると、かろうじて足りるものの――
今月のやりくりは、かなーり厳しい……。
【綺來】
「いいの? 本当にいいの?」
綺來が何度も訊いてくる。
信じられない――とでもいう風に、目を大きくみはっていた。
【司颯】
「まぁ、いいさ――久しぶりの再会祝いだと思ってくれ」
俺は綺來の顔を視ることができず、
プイッと横を向いたまま答えた。
ふー、慣れないことをしたせいで、なんだか顔から火が出そうだ。
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